ハイスクール・レースウォー(コミック)あとがき

 私が大好きな映画に「デスレース」、「マッドマックス」、「ワイルドスピード」などがあります。このような奇抜なストリートカーアクションというのは非常に惹きつけられるものです。「フライングレーサー」のレースシーンを撮ってから、これらの映画のようなストリートレースを主題にしたコミックを作りたいと思っていました。その後「赤い自動車」でそういった場面を撮りましたが、ほんの1ページ程度のレースシーンでは私の心は満たされませんでした。私が作りたいのはもっとページを多く使い、格好いい車、格好いい走り、格好いいクラッシュが存分に出てくるようなコミックでした。それに合わせてストーリーも十分な厚みで描いていくことが必要でした。今までせいぜい20ページ程度で収まっていたコミックでは、ストーリーの展開が急な印象を与えていました。今回は駆け足にならないように、十分なページを使って物語を表現したいと思いました。そうして私は138ページ(後に1ページ追加で139ページ)という今までにない長編の台本を書き上げました。

 構想自体はだいぶ前から考えていましたが、実際にストーリーを書き始めたのは1年前の2008年の9月でした。レースシーンは夜という設定にし、レゴの車を魔改造で電飾してワイルドスピードのような雰囲気を出そうと思っていました。しかし細かい電球の取り扱いは素人には無理そうなことが分かり、昼間のレースに変更しました。そうして初めに考えたストーリーは完成版とほぼ同じでしたが、主人公がレースウォーに出場することが決まってからすぐにレースシーンに移るというものでした。レースシーンだけが撮りたかった私は、レースに出場するという最低限の理由付けだけして、まともなストーリーを考える気がありませんでした。まじめな生徒であるはずの主人公がレースの日になぜかカスタムされた車を持ち込み、なぜか優勝するという滅茶苦茶なお話でした。
 しかしネットで人に見せるという前提がある以上、これではあまりにも自己満足すぎます。出場決定から当日までの準備期間を描く必要があると思いました。そこで新たな登場人物として2人の協力者と、カイトの父親を出すことにしました。彼らとの物語が結局は最後のレースを盛り上げる要素になりました。前半ストーリー部分の脚本は結構すらすらと書くことができました。丁度ネット上で「オナニーマスター黒木」というマンガを読み、学園青春物のストーリーに熱くなった時期でした。

 制作の過程はメイキングのページで紹介しますが、これほど長い期間を費やすことになるとは思いませんでした。今までのコミックの10倍程度のページ数があるため、撮影の方も多くなるのは当然です。しかしストーリーが詰まっていた今までのコミックに比べて密度が薄くなっており、1ページ辺りの作る労力は軽減されると目論んでいました。結果確かに1ページを作る労力は少なくなりましたが、思ったほどではありませんでした。私はストーリーを考える段階で、撮影が大変になるであろう後半レースシーンに備えて、前半はほとんど修理工場で展開するようにしました。レースに至る前半部分は一ヶ月くらいで作れるとさえ思っていたのです。ところが実際に撮影に入ると、修理工場のシーン以外にもたくさん必要なシーンがあることに気づきました。2008年10月に撮影を開始し、ようやくレースウォーの撮影に入ったのは2009年6月になってからでした。

 レゴ作品的な見所になるのは勿論カスタムカーです。というか車以外はどうでもいいと言ってもいいでしょう。特に伝統的な4ポッチ幅で新たな車ビルドの世界を広げたいと思いました。レゴレーサー・シリーズの登場で、レゴの車を今時のスタイルでカスタムするパーツが多数登場したことは大きな進化でした。シティシリーズでも新たな乗用車の形が生まれ、私が望む状況がレゴによってすでに提供されている状態でした。クールなデザインのシールも多く、今回車を飾るのに大きく貢献しました。
 元々車に電飾をする気だった私は、自作シールを貼るという魔改造を行うことにたいした抵抗はありませんでした。2000年頃からアメリカでは日本車を改造したスポコンが流行りました。その頃からデコレーションとして日本の文字や国旗をデザインしたステッカーが(レゴのセットの中にさえ)よく見られるようになりました。特に今熱いのは日本のアニメ絵を車に描くことです。すでに海外のカスタム業界でもちらほら見受けられ、私もコミックのメインの車にアニメシールを使うことにしました。日本の文化を反映したクールなカスタムです。
 その他にも現実のカスタムカーではお馴染みの要素を多く取り入れました。最近多く行われるようになったガルウィング化や、ニトロのボンベ、チルトアップするピックアップの荷台などです。さらに多くがリアウィングを装着しています。

 ストリートレースを題材にした作品なら不可欠な、カスタムカーの集合シーンは2人のレゴビルダーの協力がなければ実現不可能でした。色とりどりのマシンが一堂に会するシーンは、ある意味ではレースシーン以上の作品のハイライトです。想像以上に素晴らしい車を集めることができたので、車を多く写すためにページを1つ増やしたほどでした。自ら名乗り出て車を貸し出してくださったWaka氏と、LEGOLEGO氏には大変感謝いたします。

 本当なら夏休みが始まる前に完成させたかったのですが、少し遅れてしまいました。一つの作品を完成させるのに長い期間がかかってしまうことが嫌だった私ですが、いざ終わると不思議と寂しい気持ちになってしまいました。もうカイトたちと一緒の時間を過ごすことがなくなってしまうことが寂しいのです。この作品の制作を通じて、自分も彼らと一緒に過ごしている気になっていたのかもしれません。特に今回は長かったですから。
 今作の続編もすでに構想があります。でも恐らく私がその物語を作ることはないでしょう。今まで学生だった私も来年度からは社会人になります。作れたとしてあと1作品くらいでしょう。その時の次回作は「満たされない人々」というタイトルを予定しています。しかし私のパソコンもカメラも旧態化しており、もうレゴコミックを作ることはないかもしれません。なので今後新しくレゴコミックを作る人が出てきてくれたら私は嬉しいです。そうしたら今度こそ私は気楽に物語を楽しむ側に回りたいです。

09/09/02


車両製作 Waka氏のコメント

 私がはじめてTamotsuさんのレゴコミックを目にしたのは「99」の途中ぐらいだったと思います。私自身は大人レゴをはじめて間もない頃でしたので、レゴコミックというものに新鮮な驚きを感じたのを憶えています。それ以来、過去作品も含めて何度も読み直す程、Tamotsuさんのレゴコミックが持つ不思議な魅力に魅かれていました。
 ハイスクール・レースウォーのエキストラカー募集の告知を見つけ、すぐに応募しようかと思った反面、レゴで4ポッチ幅の車など作ったことも無く、また作品制作を行う時間や責任といったことを考えてしばらくは躊躇していました。参加することにしたのは、やはり何らかの形でお手伝いしたいという気持ちがあったからで、思い切ってエキストラカー応募のメールをしたのがきっかけでした。
 未経験だった4ポッチ幅の車という縛りは、私に新たなレゴビルドの世界を広げてくれたようで、当初目標としていた10台では車ビルドへの欲求は収まらず、結局18台製作してチョイスしていただく形になりました。1ページ増やしてまでも多くのシーンで製作した車を掲載していただき感謝感謝であります。
 個人的に、この作品はこれまでのどのコミックよりも好きな作品で、エキストラカーの参加をしたからというのもあると思いますし、ページ数の多さなどもあると思いますが、それ以上に私が好きな80年代の青春映画を思い起こさせるようなシーンが端々に存在し、心のすみっこを突つかれるような感覚が心地よかったりするんですよね。
 最後に今回このようなすばらしい機会を与えて下さったTamotsuさんに感謝するとともに、もしまたレゴコミックを作ることがあれば、ぜひ協力させていただきたく思います。

Waka
studio Waka

09/09/02


ハイスクール・レースウォー
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